伝統楽器の可能性を探求するコラボレーションプロジェクトがスタート
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篠笛奏者の佐藤和哉が異なるジャンルとコラボレーションを行い、篠笛の新たな可能性と自身の表現の幅を広げるためのプロジェクトがスタート。
今回はその第一弾として、京都を拠点に活動する電子音楽家・アーティストの武田真彦と共作した楽曲「蛍火」と、佐波理製のおりんを製造する南條工房とコラボしたオリジナルのおりん「幸音」を開発いたします。
日本の美しい情景を「音」で見立てた環境音楽
「蛍火」short ver.
本楽曲は、日本の美しい情景を音で見立てた環境音楽として制作しています。
清らかな水に生息する蛍。人は蛍を観るとき、その儚くも神秘的な光の明滅に、心が清められる感覚があります。
そんな、清らかな水と豊かな自然の象徴でもある蛍の情景を表現したのが「蛍火」です。
その情景を描くことで蛍が生息する、清らかな水辺のある世界で浮遊するような、日々の喧騒から離れて心の浄化や、日本の美しい自然を慈しむ気持ちを想起していただきたい。それがこの楽曲に込めた佐藤和哉の想いです。
曲は、そんな美しい情景を「音」で見立てて表現しています。
蛍の明滅する光は篠笛のランダムな音色を、水辺に反射する月の光のゆらぎは仏具のおりんの音を使用しています。
さらに、水の音はそのまま自然の音を収録し、環境の生の音をも使用しながら一つに曲として昇華させていきます。
繊細かつ美しい音色を篠笛で表現する従来のスタイルとは異なり、笛の音と電子音を融合させるなど実験的な試みを幾つも取り入れた、佐藤和哉の新境地とも言える音楽作品となります。
清らかで、無垢な心の時にこそ、本質的な事に気付くことができる。
日々、忙しなく動く現代社会で少しでも心を整理ができるような、気持ちの切り替えができる一曲です。
コラボレーションした「電子音楽」とは
今回ご一緒した電子音楽家・アーティストの武田真彦は、京都を拠点に活動しています。
電子音楽や、環境の音を録音、増幅させながら作るアンビエントミュージックの制作、さらには美術領域でも音を使って作品を制作するアーティストです。
意図的な仕掛けではなく、プログラミングにより音をランダムに鳴らし、音色を変化させていく制作方法は、ゆらぎを感じる気持ちのいいテンポや、有機的で落ち着きのある音などを生み出しています。
なかでも、音で空間に密度をもたせて鑑賞体験ができるサウンドインスタレーション作品「CYCLEE」が代表作です。
レコードプレーヤーの上に置かれた仏具のおりんがランダムに鳴り響く作品は、絵画や、照明などのインテリアや、お香やお茶といった嗜好品、あるいはラジオやプレイリストといったBGMのように、心地よい機能性と距離感を持つ作品です。
このように、音楽としての表現の幅を広げていく試みもコラボレーションのきっかけとなっています。
インスタレーション作品「CYCLEE」
創業190年余りの歴史に培われた伝統の技術・知恵とともに制作したオリジナルの「おりん」
今回のコラボレーションで欠かせない存在であり、楽曲の中でも使用されている音のひとつが「おりん」です。
おりんは仏具の一種で、祈りを行うために必要な道具です。その澄んだ美しい音色が特徴で、近年では瞑想などリラクゼーション効果も期待されています。
そんな魅力あるおりんの開発で協力いただいたのが、創業190年を超える歴史を持つ京都の老舗工房、南條工房です。
創業時から今なお引き継がれている伝統的な製法は「佐波理(さはり)」といい、古くは正倉院宝物にも用いられた合金で、音色と余韻を良くするために銅に錫を限界まで配合した合金です。その音色はとても澄みきり、心地よい余韻を奏でます。
南條工房は、佐波理製のおりんを始め、祇園祭や各地の囃子鉦・鳴物神仏具を専門に製造している国内でも数少ない工房。ひとつひとつ手作りで丁寧に製造されています。
創業190年を超える歴史を誇る南條工房
今回の楽曲で使用したおりんは、すべて南條工房のもの。繊細な音色が静かに反響する様は、まさに「癒しの音」とも言える印象的な役割を担っています。楽曲制作の中でも大事な位置づけとなったおりんは、佐藤和哉自身の表現との親和性を感じられます。
そこで、「蛍火」の制作を経て、曲だけではなくおりん自身の音にもフォーカスしておりんから得る「癒しの音」をご自宅でも体験してほしいという想いから、オリジナルのおりんを制作するに至りました。
おりんの名前は「幸音」。伝統ある南條工房と理想の音色になるまで調律を重ねてこだわり抜いた逸品です。
その音色は素朴で優しさがあり、懐かしさを感じさせ、人によって受け取る印象が変わっていくという点において、佐藤和哉自身の表現にも通ずるものがあります。
ご自宅でも、持ち運びでも、お気に入りに場所でこの「幸音」と共に、「音」のある生活を体験してもらえたら幸いです。
伝統楽器の枠に収まらない、様々なコラボレーションの可能性
本プロジェクトは、伝統楽器の篠笛を扱う佐藤和哉の新たな表現への挑戦です。
伝統楽器としての枠には留まらない、可能性を模索しつづける旅は始まったばかり。日本の各地の伝統的な文化や、多角的な表現をする芸術、そんな誇れる自身の表現と掛け合わせて、みなさんに発信していきます。
旅は、まだ始まったばかり。佐藤和哉の挑戦はこれからです。
企画:株式会社幸音
企画協力:株式会社マガザン
作品制作協力:Masahiko Takeda / 南條工房