佐賀「唐津くんち」〜掛け声の意味〜
- 日々のこと
「『エイヤー!』って、漢字では『栄家』って書くらしいっちゃんね。やっけん、家々に向かって『栄あれ!栄あれ!』って言ってまわりよるってことらしか。」
祭初日の宵山で、一緒に曳山を曳く幼馴染みが教えてくれた。
この言葉、自分にとっては、衝撃的なことだった。
恥ずかしながら、僕はこの歳まで、知らなかった。
ただの掛け声くらいにしか思っていなかった(むしろ「エイヤ」ではなく「エンヤ」だと思っていた)
この一言で、自分の曳き子としての在り方や唐津くんちの印象が、大きく変わった。
ただの掛け声が、人々の繁栄を祈る言霊を宿した呪文ならぬ【寿文(じゅもん)】となったのである。
そうなると、自然と【動き】にも意味が見えてくる。
「エイヤ!」と声を出す時には、綱を掴んでいない方の掌を宙に突き出す動きがある。
この動きが、まるで曳山から綱を通じて自分の身体に流れ込むエネルギーを、巡る家々、見物する人々へ向けて、『えいや(栄家)!』の言霊とともに振り撒いていく!
そんな風に感じたのだった。
自分一人の力なんて、微々たるもの。
でも、それが数百人となり、そのしんがりを勇壮で晴々しい曳山がやってくるわけだ。
しかもそんなのが14台も連なって、三日間。
そりゃ邪気も退散するでしょう。
そして、忘れてはならないのが、この祭を司る総取締役会を始め、各町ごとにその町内と曳山を取り仕切る取締役会の方々の働きである。
一年を通して事あるごとに集まり、この3日間の為の準備をする。
責任を持って各役割を務め、祭を盛り上げ、無事にやり遂げる為に一丸となって取り組まれている。
そして、後進をしっかり育てながら、この祭を受け継いでいく。
唐津くんちの醸す圧倒的な統率力は、そんな方々の団結力と努力と愛情の賜物なのだろうと、この歳になってようやく、しみじみと感じた。
そんな靭い想いの込もった祭に参加させていただけていると思うと、自然と声も出るし、動きにも力と心が入る。
自分は仕事上、喉を大切にしないきゃいけないとわかっていながらも、声を出さずにはいられなかった。
精一杯のケアをしながらも、3日目には枯れた。
でも、悔いはない。
それ以上に大切なことを、教わった。
心から無邪気に、人々の繁栄を願いながら、精一杯の気を込めた声を届けてまわる。
なんて素晴らしい祭だろう。
益々、唐津くんちに敬意が湧き、そして、好きになった。
やっぱり最後は、涙が溢れた。
唐津に生まれたことを、誇りに思った。
2018.11.04